今年も宜しくお願いします

新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。

昨年は、以下のものを公刊しました。既に本ホームページにおいて触れたものにはコメントへのリンクを貼りました。それ以外の公刊物については、以下のリスト中で短いコメントを付しました。いろいろと反省点はありますが、今年も自分にできることを少しずつでもやっていければ…と思っています。

『刑事訴訟法入門』(第2版、日本評論社)1-355頁

「監視型捜査」法学教室446号24頁-30頁

「田宮裕理論と刑事上訴法・刑事裁判効力」近畿大学法学65巻1号52頁-76頁

「平野龍一理論と刑事公判法」近畿大学法学64巻3=4号18頁-42頁

平野龍一博士の刑訴法理論について、捜査法を野田隼人さん(弁護士)、証拠法を南川学さん(弁護士)、上訴・裁判効力を京明さん(関西学院大)と分担して執筆しました。私は審判対象や公判に関する諸問題を担当し、(1)政策に左右されない理論の構築を目指した團藤説に対して、政策目的の実現に資する理論の構築を目指した点に平野説の特色があること、(2)平野説は政策目的を基礎とする解釈論を基礎づけたが、政策によっても動かしてはならない理論的基層が何なのかの見極めに難しさがあったこと、(3)平野説の訴因論は、裁判所・検察官のみならず、弁護人を含めた法曹三者の利害の一致があったために実務でも定着したと考えられること、(4)平野説の下では、職業裁判官への強い信頼とともに、検察・弁護人・被告人が高い能力を発揮することが期待されており、その意味では主体性への期待と信頼があったと評価できる点で、團藤説と吸引し合う面もあったこと等を論じました。

「被告人の訴訟能力の回復見込みがない場合の手続打切り」季刊刑事弁護90号73頁-78頁

被告人の訴訟能力に回復の見込みが認められない事案について、公訴棄却判決により刑事手続を打ち切った最高裁平成28年12月19日判決が出ました。上告審において、弁護人からの依頼で執筆した意見書に、経緯等を付したものです。意見書を出して一方当事者に左袒した以上、判例評釈を書くわけにもいかなかったところ、意見書を公刊する機会を頂戴できたことはありがたいことです。

「GPS装置による動静監視の理論問題」季刊刑事弁護89号92頁-95頁

GPS動静監視に関する特集を組むよう編集委員会から提案がなされたため、斎藤司さん(龍谷大)、尾崎愛美さん(慶應義塾大・院)、高平奇恵さん(弁護士)にご寄稿いただきました。拙稿は、問題の所在や特集全体の見取図を示したものです。

「團藤重光理論と刑事証拠法」龍谷法学49巻2号135頁-157頁

團藤重光博士の刑訴法理論について、捜査法を斎藤司さん(龍谷大)、公判法を辻本典央さん(近畿大)と分担して執筆しました。私は証拠法部分を担当し、(1)團藤説の訴訟状態等に関する基礎理論は、職権証拠調べの必要性や審理不尽を支える機能を有したが、これは解明度に関する理論枠組みに代替しうるものだったため、民訴法学と異なり刑訴法学では解明度概念が直ちに定着しなかったと考えられること、(2)團藤説の基礎理論は政策と距離を置いた議論を行うという出自からして、立法においても「変わるべきではないもの」を構築する営みだったこと、(3)戦後の團藤説の変遷は、政策的思考を強めていたこと、その他團藤説の立法論等を確認しました。諸事情で、当該媒体の刊行日は2016年と明記されていますが、現実に刊行されたのは2017年1月でした。

「アルゴリズムにより再犯可能性を予測するシステムの判断結果を考慮して裁判所が量刑判断を行うことが、適正手続保障に反しないとされた事例――Wisconsin v. Loomis, 881 N.W.2d 749 (2016)」判例時報2343号(2017年)128頁-129頁

「関税法に基づく税関職員による郵便物の輸出入の簡易手続として行われる 無令状検査等が憲法35条の法意に反しないとされた事例――最高裁判所第3小法廷平成28年12月9日判決」新・判例解説Watch21号(2017年)199頁-202頁

「対象者を違法に拘束している間に未執行の逮捕令状があることに気づき、同令状を執行して逮捕に伴う無令状捜索を行って得た証拠物について、稀釈法理に基づき毒樹の果実論の適用を否定した事例――Utah v. Strieff, 136 S.Ct 2056 (2016)」判例時報2322号(2017年)33頁-34頁

違法行為から独立して予め発付されていた逮捕令状が存した事案で、当該逮捕令状の執行により無令状で(プレイン・ヴュー法理にもとづき)証拠を押収したことについて、逮捕令状の執行により違法性が希釈されるとして毒樹の果実法理の適用を否定したアメリカ連邦最高裁の判例を紹介しました。もっとも、私自身は、トーマス判事の法廷意見よりも、ケイガン判事の反対意見の方が、理論的には洗練されている印象を受けました。

「偽計による自白――最高裁昭和45年11月25日大法廷判決(刑集24巻12号1670頁)」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選』(第10版、有斐閣、2017年)164頁-165頁

偽計自白に関する古い最高裁判例について、現在において新しい考えをどのように付け加えられるのかを、かなり悩みました。事案が「虚偽を誘発するおそれのある自白から出た真」であったにもかかわらず、本判決では自白の任意性が否定されていることからして、虚偽排除説的にこの判例を読むならば、虚偽誘発のおそれは類型的に判断され、虚偽を誘発するおそれのある手法から得た自白から、自白どおりの事実が他の証拠によって解明されたとしても任意性が否定されることになる旨を指摘しました。

エッセイ「判例をつくる当事者、そして法曹」法学教室443号(2017年)2頁-3頁

書評「改訂を通じて歴史を紡ぐ――白取祐司『刑事訴訟法〔第9版〕』」法学セミナー750号(2017年)112頁

いわゆる「白取刑訴」の改訂を受けて改訂箇所を示した上で、第9版を数える同書が、日本の刑訴法改正やその後の判例の変遷を追う歴史を紡ぐ役割をも果たしていること等を書きました。前の職場では、研究室が隣だったのですが、改訂時に分厚い校正刷が積まれているのを目の当たりにして、「大変な作業をされているのだな」と実感したことを思い出しました。

コラム「清水克行『日本神判史』(中公新書、2010年)」HQ54号(2017年)53頁

学内広報誌のコラムとして、趣味の話が書評を書くようにと依頼されました。人に語れるほどの趣味はない以上、書評一択。過度に専門的ではなく、かつ高校生や企業でお勤めの方々も関心を持っていただけそうで、面白くて…などなどいろいろな要素を勘案して候補を絞った結果、この本になりました。やや古すぎる気もしたのですが。今、依頼されたならば、ソロヴ『プライバシーなんていらない!?』(勁草書房)とか、アビー・スミスほか『なんで、「あんな奴ら」の弁護ができるのか?』(現代人文社)あたりを選んだかも知れません。