アメリカ合衆国の連邦最高裁を中心とした憲法訴訟手続に関する書籍である、大林啓吾編著『アメリカの憲法訴訟手続』(成文堂、2020年)の企画に参加する機会を得ました。政府側の訴訟代理人である、司法長官と訟務長官を取り上げ、その機構と連邦最高裁での審理において果たしている役割を分析しました。
(1)司法長官と訟務長官の関係を簡潔に確認した上で、(2)訟務長官(Solicitor General)を支える事務局の構造、(3)訟務長官が訴訟において実現すべきと考えられている「合衆国の利益」の内実にかかわる議論と、その現れかた、(4)連邦最高裁における裁量上告や本案審理での訟務長官の役割、(5)裁量上告や本案審理における訟務長官側の勝率の高さの要因等を扱っています。
刑事司法を研究対象としている私としては、国の代理人として刑事訴訟を追行している検察官の行動様式との関係で、訟務長官を分析していて興味深く感じました。本稿は、アメリカの憲法訴訟手続に関する書籍に収録されたものであるため、日本のことには立ち入っていませんが、検察官が実現しようとしている「公益」が、検察官の行動様式に対してどのような影響を与えているのか(与えるべきなのか)や、検察官側が上級審において「勝利」を得る確率が高い理由などを考える際に、一定程度参考になりそうな印象を受けつつ、本稿を執筆しました。
なお、脱稿した時期との関係で、トランプ政権下における訟務長官の行動様式については、ほとんど分析できていません。また、校正にも反映できなかった文献の1つとして、Stephen I. Vladeck, The Solicitor General and the Shadow Docket, 133 Harv. L. Rev. 123 (2019)があります。これらのことが心残りではありますが、ご笑覧の上、ご批判いただけますと幸いです。
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