「刑事訴訟法学と実務――刑事訴訟法学の「守備範囲」をめぐって」法律時報2019年8月号(91巻9号)50頁以下が公刊されました。
本企画を立てた小粥先生の手による、「平野流〔引用者注:平野龍一〕の捜査構造論やモデル論を切り捨てるのであれば、それは、自らの守備範囲を目先の解釈論や立法論に限局した結果にすぎないようにも思われる。ときには、大ざっぱではあっても、長期的視野にたち、刑事訴訟のあり方を論ずるのもよいのではないか」(小粥『日本の民法学』8頁)というご指摘を起点として、平成期の刑事訴訟法学の特色と、今後の展望を若干書きました。
なお、平成期の立法と判例については、別の企画で扱われるため、今回はもっぱら学説の動向という観点から検討しています。
本稿では、(1)刑事訴訟法学がなぜ捜査構造論やモデル論を昭和期に提示したのか、(2)捜査構造論やモデル論が平成期には強調されず、利益衡量的アプローチが強まったのはなぜか、(3)平成期に捜査構造論やモデル論(ないしモデル論的思考)が意義を発揮した場面はあったのか、(4)今後の展望と課題は…といったことを取り上げて自分なりに考えたつもりです。(1)~(3)は、実務ないし法曹養成との関係を、私なりに意識したつもりです。
当初は、まったく別の切り口で書こうと考えており、執筆を終えるまで紆余曲折した原稿でした。端的にいえば、依頼を受けた後、ずっと精神的に重圧がかかっているような感じでした。
ここ数年間、同世代の研究者と、刑訴法学説の理論史をともに研究していたのですが、その経験がなければ、今回の原稿は書けなかったように思います(この研究成果があったから依頼されたのか、それとも学内での小粥先生との会話が契機となって依頼されたのかは分かりませんが)。最後まで、「平成の最初10年間は、中高生~大学生で、法学について考えていなかった自分が、平成の法学について書いていいのだろうか。前提としている背景事情についての認識に誤りはないのだろうか」という感覚が、拭えませんでした。ご批判いただければ幸いです。
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