書籍:『基本刑事訴訟法Ⅰ・手続理解編』

吉開多一先生(国士舘大学教授、元検察官)、設楽あづさ先生(弁護士)、國井恒志先生(裁判官)とともに、『基本刑事訴訟法Ⅰ・手続理解編』を執筆しました。今後刊行される予定の『基本刑事訴訟法Ⅱ・論点理解編』との2冊で、刑事訴訟法の全体像を理解できる教科書にしようとするものです。

Ⅰの『手続理解編』は、まずはノーマルな刑事手続を、事例に即して具体的なイメージを持ちつつ理解してもらおうとするものです。そのため、判例が形成されるようなイレギュラーな事態を詳述するのではなく、手続を流れとして理解すること、条文上の要件を把握することを目的としています。このような手続理解編をわざわざ設けたのは、4人の共通する問題意識に起因します。学習者はしばしば論点の所在と判例の判旨ばかり暗記し、手続を押さえていないことがあります。しかし、手続への理解は、個々の争点・論点を理解するときにも重要な前提になるところです。

そのため、とにかく手続を、砂を噛むような感覚ではなく、イメージ豊かに理解してもらおうという意図で、書式や事例、セリフ、図表を数多く使用して、学んでもらおうとした次第です。また、近時の実務動向のうち、法科大学院生が知っておいてもよいものと考えられる事項については、コラムなどで触れるようにしました。図表の多くは、一部を除き、吉開先生が、検察官だった頃に裁判員裁判等の準備のために身につけたという作図能力を発揮されて、作成したものです(他の3名の執筆者も図表は適宜作成していますが、量としては吉開先生によるものが非常に多いはずです)。結果的には、法科大学院の刑事実務科目を学ぶ際にも、前提的なイメージを共有するために有用だろうと考えています。

  • 大学において、近時は刑事訴訟法を2単位科目2つに分割し、1科目目で手続全体を学び、2科目目で論点を取り上げて学ぶというところも、しばしば見られます。そのような大学においては、本書のような分け方はかなり適合的だろうと想像します。

また、起訴状における訴因の記載に関する説明や、争点を形成するということの意味など、公判前整理手続における証明予定事実や予定主張などとかかわらせて具体的に説明している点などは、本書に特徴的な点だと思います。

私の担当部分については、刑事弁護人の制度の存在意義や、黙秘権の存在理由、「疑わしきは被告人の利益に」原則の理由など、大切なことだけれども従前の教科書にはあまり記述がなく、知ろうとすると論文などを読まなければならない点も、私自身は気になっていました(刑事訴訟法を学部で学ぶだけで卒業していく法学部生の場合、むしろこれらの事項が大切な気がしていました)。そのため、これらについて、(現状でも議論はあるのですが)一定程度の記述をすべきだと思い、本書には入れるようにしています。手続の理解のために、不可欠だと思うからです。証拠法の記述は概括的なものであり、事例等を通じた要件の確認が主となりますが、より具体的には『論点理解編』で検討することになります。刑事訴訟法の歴史についても、淡々と経緯を述べるのではなく、テーマを設定して叙述することにしました。

強制処分の意義や、任意捜査の限界、逮捕勾留の理論的な諸問題、訴因変更、自白法則、違法収集証拠排除法則、伝聞証拠禁止原則、伝聞例外など、判例・裁判例が数多く形成されている部分は、『論点理解編』で説明することになります(なお、『論点理解編』の初稿は全員提出済みです)。

國井先生からのお誘いで、この企画に参加しました。國井先生には、法曹三者+研究者で教科書をつくるという明確なビジョンが当初からあったようです。今回のメンバーは、いずれも國井先生のお声がけにより集まりました。

もちろん、執筆者の間に見解の相違があることも事実で、様々な場面で議論になりました。しかし、編集担当者の熱意もあって、実務の状況と制度の全体像を、わかりやすく伝えようというところでのコンセンサスは共有しつづけたと思っています。基本的には、公判を吉開・設楽・國井各先生が、捜査・公訴提起を吉開先生が、総論前半・歴史・証拠法を緑が、弁護を設楽先生と緑が、総論後半・裁判・上訴を國井先生がそれぞれ初稿を作成し、その後、意見や修正案などをぶつけ合うなどして、作成しました(複数の章に分散している場合もあるので、各人の担当が章別にきれいに対応しているわけではありません)。見解が割れた場合には、最終的には、現在の実務上、どのような扱いになっているかを指針として記述しています。

機会があれば、お手にとっていただき、刑事訴訟法を理解するためのツールの1つになるとすれば、非常にうれしく思います。