もう刊行から数ヶ月経ってしまったのですが、法律時報95巻12号に掲題の論説を掲載していただきました。特集「証拠排除法則の総合的検討」の中の1本です。企画者である稲谷先生の問題意識は企画趣旨においても示されているとおりですが、私は下級審裁判例を分析することで、違法収集証拠排除法則の論拠について、裁判所がどのような理解をしているのかを抽出してみたいと考えました。
裁判例から帰納的に考えた結果として、(1)過剰な権利利益の侵害、必要性を欠いた捜査上の処分の執行、司法機関である裁判所・裁判官を騙す行為があるときに証拠を排除しがちであること、(2)これらの要素は、令状主義が本来防ごうとした事態だったり、令状主義が機能するための前提として防ぎたい事態であり、「令状主義の精神」という判例のフレーズが非常に大きなプレゼンスをもっていること、(3)そのことが違法捜査の抑止や司法の廉潔性等の排除法則の論拠とされる概念への志向を弱め、論拠との関係を裁判例が自覚的に検討する契機を喪失させた可能性があること等を指摘しました。
今回は、個別の場面における排除の基準をミクロに分析することに主眼を置いておらず、あくまで「排除法則の論拠が機能しているのか」という観点から分析したものです。そのため、各捜査態様毎に証拠排除において重視される事情を詳細に分析する性質の論説ではありません。それは今後の課題です。ご批判いただければ幸いに存じます。
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