季刊刑事弁護108号の特集「続・もっと違法を主張しよう」において、論文「令状請求時の違法とその重大性の関係」と、コメント「事例から学ぶ違法収集証拠排除を導く要素」を執筆する機会を得ました。
この特集では、私の執筆した部分のほか、刑事弁護人の方々による事例レポート7本と、金岡繁裕先生による「事例にみる違法収集証拠の争い方」が収められています。事例レポートの7本は、いずれも弁護人の方々の精力的な弁護活動の成果というべきものであり、拝見して大変勉強になりました。また、金岡先生の整理されたコメントも、事例を読むために、そして弁護活動の際の留意点として意義のあるものだと思います。私のコメントは、これら事例から見出だせる、理論的に意義のある事項について概括的にコメントしたものです。
私の論文の方は、令状請求時の捜査機関の違法行為が、証拠排除にどのように作用するのかについて裁判例を基礎として整理したものです。
よく、違法行為とその後に獲得された証拠の間に司法審査が介在すると、希釈法理が適用され、違法行為と証拠獲得の間の密接な関連性が否定されると説明されます。しかし、下級審裁判例を分析すると、そう単純な話ではないことが読み取れます。特に、違法行為によって得られた事情を疎明資料として令状請求を行う場合で、しかも違法行為によって得られた事情が令状審査時の「重要部分」「枢要部分」を構成する場合には、令状の発付もその後の証拠の獲得も、違法行為のおかげで行われたという密接な関連性が維持されるものと判断される傾向にあります。そして、このような場合には、証拠能力が否定される傾向にあります。そのことを、具体的に論証するよう努めました。
また、このような枠組みは、体内にある証拠物を取り出すために、令状により被疑者に対して内視鏡検査を行った事例において、裁判所が内視鏡検査についての疎明が不十分であることを理由として違法性を認定し、証拠能力を否定した裁判例についても示唆を与えます。令状審査の「重要部分」「枢要部分」についての疎明不足が、令状主義を形骸化させ、証拠能力を否定するような違法が存在したと認定することの可能性を考えさせるものだと思いました。
そこで、これら2つの問題を結びつけて分析し、示唆を得ようとして執筆いたしました。ご批判いただければ幸いです。
なお、季刊刑事弁護108号では、特集「専門家の資格」「未決拘禁と防御権の保障」も併せて収録されており、それぞれ整理された議論に接することができます。前者の企画では、事例レポートや論文(高野隆先生、徳永光先生、宮村啓太先生)とともに、法曹三者+研究者(成瀬剛先生)による座談会もあり、議論の整理が進むものと思います。後者の企画では、施設管理権と秘密交通権の関係などを問う論文(石田倫識先生、葛野尋之先生、福島至先生)が収録されており、議論状況を把握できるものと思います。
*夏に再度入院したことで、担当編集者の方や企画者に迷惑をおかけしました。こちらの事情に対応して下さったことに、厚く御礼を申し上げます。
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