判例評釈である、「空港におけるスーツケースの解体検査に令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとした事例(千葉地裁令和2年6月19日刑事第1部判決)」刑事法ジャーナル73号139頁以下が公刊されました。
被告人が承諾しているとはいえない状況で、税関職員がスーツケースを解体して検査し、白色結晶を発見して仮鑑定に付したところ覚醒剤反応が出たため、被告人を現行犯人として逮捕した事例を扱った裁判例です。本判決は、憲法35条の法意から、特段の事情がない限り、同意も令状もなく旅客の手荷物の解体を行うことは許容されないとして、当該解体検査を違法だと判断しています。また、証拠排除も認めて無罪判決を言い渡しています。
先行する評釈でこの判決は批判もされてはいますが、違法と判断した説示についてはむしろ妥当なのではないか。適法か否かの判断については、実質的に本判決は笹倉宏紀「令状主義の意義と機能に関する若干の考察」刑事法ジャーナル56号(2018年)39頁以下で提示されている枠組みを採用しつつ、事案に即して憲法35条の保護する利益についての判断を付け加えた形になっているように見える――というのが、私の理解したところの本判決の内容です。紙幅の制約で、証拠排除にかかる説示の分析は割愛しています(証拠排除については、脚注で若干触れました。また、脚注とは別の観点から、拙稿「事例から学ぶ違法収集証拠排除を導く要素」季刊刑事弁護108号(2021年)74頁以下でも触れました)。
なお、弁護人からみた事件の内容については、上田真生「同意も令状もなくスーツケースを破壊した行為が重大な違法と認定された事例」季刊刑事弁護108号(2021年)88頁以下があります。うかつにも、上記の拙稿ともども、脚注に入れ忘れていたことに気づいたので、お詫び申し上げますとともに、ここで補足として挙げさせていただきます。申し訳ございません。
0コメント